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哲学事業部 newQ についての覚え書き

哲学事業部をやっていると、たまに「これからのビジネスに哲学は必須ですよね」と言ってくれる人がいて、それはとてもありがたいのだけど、ややうしろめたくもある。

なぜか。

ちなみにこのうしろめたさは、「哲学のビジネス利用」といったようなものでは、おそらくない。というのは会社で哲学にとりくみはじめたきっかけは、そもそも「哲学を勉強したいけれど、仕事で哲学をすることにしたら一石二鳥じゃなかろうか?」という、ごく個人的な軽い気持ちではじめているところにある。なので必須かというと、その答えはまだ出ていないし、その答えを出すためには「哲学がビジネスにも役立っている」といえるような実績や仕組み作りをもっとしていかないといけないわけで、それに先だって「ビジネスに哲学が必須だ」という理論立てはあいにく用意していない。そして、実は少し懐疑的だ(他のメンバーは何と言うか分からないのだけど)。

まず、この「ビジネス」といったときにどのような営みを指すのかが難しい。狭義で言えば、金銭を通したやりとりのことで、実際に哲学事業部は業務において対価を得ているので、これはビジネスといえるが、わざわざ横文字にするほどのことではなく「小商い」とも、あえて任侠っぽくいえば「シノギ」とも言える。それは街角で友達に「最近、何をビジネスにしてんの?」と問われれば「哲学」と答えるようなノリで、例えば大学から研究費をもらって哲学を研究していた場合も同じように答えると考えられるだろう。面倒なので、一旦これを小文字のビジネス(business)と言いたい。

一方、大文字のビジネス(BUSINESS)といえば、これは新しいビジネスモデルをつくって出資を募って株式市場で勝負をかけるような、例えば日経ビジネスに載るような資本主義のメジャーリーグで戦うような世界である。まぁ、日経ビジネスの仕事はいくつかしたこともあるし(だいぶ前に初期のアプリの設計をした)、来る仕事の半分くらいは大企業の新規事業の案件なので、実際大文字のビジネスの世界で仕事をしていることにはなる。ただ立ち位置としては、そのビジネスの現場においてクライアントとともにサービス設計であったり理念を形づくったりするポジションであることが基本である。デザインチームというくくりに分けられることもあるが、その場合、対してビジネスチームというのが存在していて、その場合そちらでは人員をはじめとしたリソースの調整や営業計画などが行われている。もちろん、デザインチームにおいて収益性とか利益率といったことは意識するのだけど、その営みがいわゆる"ビジネス"かというとちょっと自信がない。

というのは、少なくとも売上、利益率といったことにおいて、長期的な価値、ブランディング、気持ちの問題といった抽象的なゾーンから反対の提案をすることも多いからだ。そういったときに役に立つのが哲学的な探求だったりするので、正面からビジネスに役立つかと問われればちょっと自信がないのである(近しい概念におけるところのデザインは、ここ10年で真面目に取り組んでいないと競合に負けるビジネスの重要な要素となっているので、様々な努力の結果、ビジネスに役立つといえるようになった)。少なくとも哲学はパーパス経営に必要であるとか、ナラティブの構築において、パーセプションの変更のためには、とビジネス用語をならべたてて必要性を説いていくこともできるが、それが理解され現実的なものとなるにはもう少し時間が必要と考えられる。

さて、冒頭で言ったとおり、哲学事業部は「ビジネスに役立つから」という観点で始まっていない。ビジネス的な成功を求めるなら、普通にデザイナーとエンジニアを雇っていたと思う。「大企業のビジネスにおいて、SDGsへの意識が求められている」という昨今の流れがあるが、SDGsを意識した活動自体はあまりビジネスとは見なされないんじゃないかというイメージが近い。そういった意味で言うと、哲学事業部は社会において「考える場を増やす」「考えることから疎外される人をなくす」という社会福祉事業の一種と捉える方が近いのかもしれない。

最後にもう一つ、うしろめたさを挙げるとすると、クライアントがそもそもビジネス企業でないNGOや市であったり、またそのプロジェクトの対象が雑誌で取り上げるような文化的なものであったり、社会運動であったりと、「ビジネスと哲学」といったときに対象とならない領域が多く含まれていることもある。

そういったことをまとめると、哲学事業部のおこなっていることは「社会において哲学をする - Philosophy Through Social」という言い方が今のところ一番しっくりきている。また、これは我々の探求のテーマであるともいえる。

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